旅は道連れ
カトマンズの宿は一ヶ月ということで借りてるので、とりあえず必要そうなものをリュックに詰め込む。準備はできた?と連れの方を振り返ってみると手ぶら。下着の替えをポケットにつっこんだぐらいなもんだ。毎度のことながら気軽に身軽に移動するこの人たちに驚かされる。
1人で旅をすることに慣れてしまったので、連れがいることは新鮮だ。ましてや現地の言葉の堪能な人と一緒というのは初めての経験。やはり言葉は大事。なにがいいって買い物が安く済む。とにかく値切る。その熱意に僕はやや引き気味になる。若い頃は僕だって口から泡を吹きながら、リキシャのオッちゃんとケンカ腰に値段交渉したもんだが、残念ながら今その熱意は僕にはない。貧乏旅行なことは今も昔もたいした変わらないのだけれどな。
観光客相手の店でTシャツなんか買うとき、僕の出る幕はまるでない。邪魔しないで、余計な口を挟まないでと言うことになる。「私もおんなじネパール人だよ、それはちょっと高すぎるんじゃない。」ほんとにお前ネパール人かよというおじさんの疑いの目など気にしない。細かい糸のほつれだって見つけるし、怒ってみたり、懇願してみたり。1ルピーだってゆずらないこの攻防は、彼女にとってスポーツのようなものかもしれない。そういえばダラムサラにいた頃、僕が部屋でトゥクパなど作って食べる用のお椀が欲しいということで一緒に買いに出かけた。しかしどの店の値段にも納得してくれずに、「メーラー(秋のお祭り)には安い店がたくさんでるからそのときに買いな」と2、3ヶ月待たされた。今日にでも使いたいって言うのに。ほんの10ルピー20ルピーの違いだっていうのに。金はオレが出すって言うのに。
まあ、倹約家がいっしょだと心強いのは確かだ。ただ問題は、酒に関してだけは2人とも金に糸目をつけないということか。
間違いなくポカラのバス停に着いたら一気にホテルの客引きが集まってくるから、いきなり言われるままに決めないで、ちょっと一服しながらゆっくり考えようぜという僕の意見に、わかったとうなずく彼女。僕にも僕の旅の流儀がある。第一波の客引きをやりすごし、残った人らとのんびり交渉したほうが相手のペースに飲まれない。ふふっオレにもいろいろ経験があるんだよなんてことを思い一人悦に入る。
ポカラに到着する。思ったとおりたくさんの客引き。たまに日本語だって聞こえる。その人らをかき分け後部のトランクにリュックを取りに行き、戻ってみたら、彼女はもうタクシーに乗り込んでいた。
「早く乗りな!」ってあんたオレの話全然聞いてないな。「いいからあんたは口出さないで」って少しひどい言い方ではないですか。
「早く乗りな!」ってあんたオレの話全然聞いてないな。「いいからあんたは口出さないで」って少しひどい言い方ではないですか。
結局彼女の即決したホテルにまっしぐら。たしかに悪くないホテルだったというところがまた腹立たしい。ほらねと言わんばかりの彼女の勝ち誇った顔も腹立たしいったらありゃしない。
ポカラは快晴。
マチャプチャレをはじめとした迫力満点のヒマラヤの峰々。「ほら見てみな山だ!山だ!」いちいち立ち止まって興奮する僕に彼女は冷めた目で答える。
「チベットにはもっともっと大きな山がいっーぱいあるんだから、あれぐらいじゃ全然驚かないよ」
くそーこのチベット娘め。素直にオレを感動させておいておくれ。